前回のあらすじ
南アルプス縦走3日目。
赤石岳の急登に苦しみながらも山頂に立ち、その先の百間平やアップダウンの続く稜線を進む。
兎岳を越え、ついに聖岳・奥聖岳に登頂することができた。
しかし、聖平小屋に着いたときには体力は限界。
背中の痛みでほとんど眠れず、不安を抱えたまま光岳を目指す朝を迎えることになった。

今日のルート
聖平小屋 6:20 → 薊畑 6:43 → 西沢渡 8:35 → 聖光小屋 9:15-10:16 → 芝沢ゲート 11:31
4日目(8月19日) 下山を決断
今日は本当は光岳へ行く予定だったが、2日間ほとんど眠れていないうえに、体力の回復もまったく追いつかない。
これ以上は危険だと判断し、下山を検討することにした。
ただ、芝沢ゲートから新宿へ行くバスは明日発。
どこかでもう1泊しなければならない。
聖平小屋のスタッフに相談すると「聖光小屋なら泊まれるかも」と教えてくれた。
ただし空き状況は分からないので「電波がつながる場所で直接電話してみて」とのこと。
……でもdocomoの電波はまったく入らない。
仕方なく、まずは聖光小屋に降りてから考えることにする。
6時20分 聖平小屋を出発!
聖平小屋から薊畑まで20分ほどの登りだが、ここでいきなり息が上がった。
別に急登でもなく、急いでもいないのに呼吸が乱れる。
これだと、もし光岳小屋を目指したとしても厳しい山行になるなぁ。
聖光小屋へ
聖光小屋までは標準CTで3時間45分、標高差にして1400mの下り。
一度降りたら引き返せないルートだが、後悔はなく、気持ちはすでに下山に切り替わっていた。
不思議と下りの足は残っていて、いいペースで降りられる。
下っている途中で「そうだ、もし電波がつながれば、バスの日程を前倒しできるかもしれない」と思いつく。今日中に帰れる可能性が出てきた。
聖光小屋に近づいてきたところで、突然目の前に現れたのはゴンドラ。
「え、これ……乗って渡るやつ?」
とりあえず乗って、ロープを引っ張って進んでみる。
お、重い・・・。そして引いても引いても全然進まない。
中間地点くらいで腕の力が入らなくなってくる。
すると偶然対岸に2人組の登山者が現れて、ロープを引っ張るのを手伝ってくれた。
おお!救世主よ!
かなり疲れたけど何とか対岸に渡れました。
ここからの林道はかなり荒れていて、落石だったり崩落している箇所が多かった。
さっさと通り過ぎたいエリアだ。
聖光小屋でバスの空き確認
まずは聖光小屋のおじさんに電波がつながるかどうかの確認。

つながらないよ。ここずっと谷だから。稜線まで行けばつながるところもあるかも
オワッタ・・・。
だが、おじさんは続ける。

でも、緊急事態なら衛星電話が裏にあるよ。20秒400円くらいかかるけど
とのこと。
おっと、希望が見えてきた。
ちなみに宿泊した場合はいくらか聞いてみたところ8,000円とのこと。
手持ち現金が8,500円。
電話をかけたら宿泊することができなくなる・・・。なんという絶妙な値段設定。
更におじさんは続ける。

いざとなったら、外にあるテントに半額で泊まってもいいよ!
中を見せてもらうと、ちゃんとマットも敷いてあって快適そう。日中は暑そうだけど。
とりあえず野宿の心配はなくなった。 とりあえず一安心。
衛星電話のところに行って金額を確認する。
最初の20秒400円、追加の20秒200円という超高額だったが、背に腹はかえられぬ。
毎日あるぺん号の受付は午前10時から。
待っている間にカンペを作っておく。
①で空きがなければその時点で今日の東京への帰りは諦める。
10時ジャスト。100円玉硬化を12枚用意。
緊張で汗ばむ指先で、ゆっくりと番号を押していく。

毎日新聞旅行 受付センターです・・・

「もしもし。今日19日の芝沢ゲートから新宿方面の毎日アルペン号の空きがありますでしょうか?」

少々お待ちくださいませ・・・。
・・・・・待っている間にもガンガンと100円玉が減っていく。

おまたせいたしました。本日の芝沢ゲートから新宿までの残席ですが。只今2席空きがございます
よっしゃー!内心ガッツポーズをしながら冷静に

では、そちらの席を1席確保お願いします。実は20日にdaikichiの名前で予約をしてあって今日に日付を変更したいです
この時点で残り20秒。

衛星電話からなので、あと20秒で電話が切れます。席の確保をお願いします。今から芝沢ゲートへ向かいますのでよろしくお願いします

わかりました。では、お客さま、すでに予約してあるお座席は・・・・
ガチャンッ!電話が切れた。
よしっ「わかりました!」って言ってたし多分大丈夫っしょ。
おじさんに確保できたた旨を伝えて、お礼を言ってから芝沢ゲートへ向かう。
芝沢ゲートまでは歩いて約2時間。
あとは帰るだけなのでお気楽モードである。
芝沢ゲートへ
芝沢ゲートまでは約2時間。気持ちはすでに帰宅モード。
単調な林道も「帰れる」という喜びで苦にならない。
しばらく遠山川沿いを歩いていく。
11時22分、芝沢ゲート着。
バスが来るのが13時20分なので、それまでゆっくり行動食を食べながらボーっとして待つ。
同じくボーっ待っている人がいたので「毎日あるぺん号ですか?」と聞くと、そうだという。
その人と山の話をしながら待っていると1台のタクシーがやってきました。
このタクシーが毎日あるぺん号でした。
悪路のため芝沢ゲートからは小型車で、途中のしらかわ温泉で大型バスに乗り換える仕組みだった。
タクシーで話していて気づいたんですが、昨日聖岳から降りるときに「足がもう駄目なんで」って声を掛け合った人でした。ここで会うとは。
その人は今回、光岳と聖岳に登って日本百名山を制覇したそうです。
15時30分しらかわ温泉着。17時20分に新宿行きのバスが迎えに来るらしい。
2時間も時間があるのでゆっくりできそうだ
まずは豚カツで腹ごしらえ、そして温泉へ。
1時間以上のんびり浸かり、疲れを癒す。
きれいで種類も多く、これで600円は安い。強くおすすめできる温泉だった。
帰りは多少の渋滞があったものの、予定通り21時半に新宿到着。
今回の南アルプス縦走を振り返って
アクセスの大変さに始まり、長い樹林帯や大きな標高差に苦しみつつも、千枚岳・悪沢岳・赤石岳・聖岳と南アルプスの主峰をしっかり歩けました。
最後は予定していた光岳を断念することになったけれど、それもまた山旅らしい出来事。無事に下山できただけで十分です。
人の少ない稜線での静けさ、広大な景色、そして帰りの温泉と豚カツ。
振り返れば苦労も含めてすべてが楽しい思い出になりました。
次に南アルプスを歩くときは、もっと余裕をもった計画で光岳までたどり着きたいと思います。
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